スタートレック6・未知の世界

『スタートレック6・未知の世界』
ST6


【総論】

TOSオリジナルメンバーによる「スタートレック」の最終作。ニコラス・メイヤー監督(2の監督)とレナード・ニモイ(スポック役/3・4の監督)は、現実世界の事象を映画に持ち込むのを良しとしているようだ。(僕はこの考えには反対。) 今作はそれが顕著で、宿敵クリンゴン帝国をソビエト連邦になぞらえて、パワーパランスが崩れる様を描いている。
それだけに重厚で、ドラマチックなのも確か。すでにTVでスタートしていたTNGへの橋渡しもきっちりこなし、最終作としても"涙もの"の内容になった。劇場で最後にキャストのサインが次々に出てくるのを見て、本当にこれで終わりなんだなぁ...と寂しいような、満足のような、何とも言えない気持ちになったのを憶えている。「とにもかくにも、良いフィナーレで良かった!」という気持ちだ。
ニモイは「我々は走路を走りきったのだ。」と語ったそうだ。「スタートレック」創始者ジーン・ロッデンベリーは、この作品をスタッフ試写で見た後に公開を待たずに亡くなったが、作品の出来に満足していたという。その意味でも、本当に良かった。...

映画は全体に推理ミステリーものの体裁で進んでいくが、終盤に一転して壮烈なバトルシーンが待っている。ちっとも宇宙探検していないけど、未知の種族との出逢いもあり、見所たっぷりだ。DVDを引っ張り出して、ちょっとだけ見ようと思っても、いつも最後まで見てしまう。やっぱり、お話の作り方がとても巧い。
この作品の約70年後のスポックを描いた「潜入!ロミュラン帝国」(TNG)が同時期にTV放映されてプロモーション効果を挙げた他、出来事をU.S.S.エクセルシオ側から追った「伝説のミスター・スールー」(VGR)が後に創られた。他にも最終会議の舞台になったキャンプ・キトマーが、後にウォーフ(TNG)の両親が巻き込まれる戦場になったりと、スタートレックの歴史上かなり重要な作品だ。



【この作品のポイント】

☆冒頭に登場するU.S.S.エクセルシオ(NCC-2000)。艦長はあのスールー! いやあ、出世頭ですなぁ。実験航海時(NX-2000)のスタイルズ艦長は今頃いずこに..?

☆対峙する、カークとスポック。「歴史を変えるチャンスです。」「あと三ヶ月で全員退役...努めはじゅうぶんに果たした。それなのに!」
カークの気持ちもスポックの気持ちもよく解る。カークは自分の息子を殺されたクリンゴンを許せない。でも、スポックはカークに果たしてもらいたかったんだろう、その憎むべきクリンゴンとの歴史を終わらせることを。で、カークがクリンゴンとの橋渡しを果たしたのを見届けて、自分はヴァルカンと(敵同士になった元同種族の)ロミュランとの橋渡しに旅立っていったわけだ。...(TNG「潜入!ロミュラン帝国」)

☆エンタープライズの艦籍番号「NCC-1701-A」を「NCC1701アルファ」と読むのって、なんかカッコいい。(詳しい人の話では、あれは通信用語として正しいそうだ。)

☆エンタープライズが宇宙ドックから出航するシーンがすごくいい! あのグーンと盛り上がる音楽、感慨深げなスコッティの顔、絶妙なカット割りで、"最後の出航"を見事に見せてくれて、涙が出た。

☆「ロミュランエールは公式の場に出してはならない。」 カークが日誌に書いたのが発端でルール化されたと思っていたけど、クリンゴン人はあれが発売禁止と既に知っていたようだ。...もっともヴァレリスが食事に出してはどうか?と提案しても、誰もいぶかしがっていなかったし、あの時点ではまだ"クリンゴンで"発売禁止、だっただけなのかな?? 見直すと発見がありますな。

☆クリンゴンとの間に突然"起きてしまった"戦闘状態に、とっさの判断で「降伏する!」と宣言して決裂を回避するカーク船長。あそこで防御シールドを張っていたらアウト(戦争突入)だった。劇場で観て「おおっ!」と思った。舞台出身のウイリアム・シャトナーの演技を批判するファンは多いが、やはりあの人でないとカークは演じられないと思う。

☆「スタートレック」の宇宙艦隊はあくまで軍隊ではない。これは制作者が掲げる大前提だけれど、ファンの間でしばしば議論されてきた。この作品を見ると、クリンゴンはカーク達を軍人と見なし、カーク達は宇宙艦隊は軍隊ではない(=調査任務がある!)と反論する。まるで、あの議題をそのまま作品に取り込んだようだ。

☆遮蔽(姿を見せない)したまま攻撃できる新型バード・オブ・プレイと戦うエンタープライズA、絶妙のタイミングで駆けつけるU.S.S.エクセルシオ! エンタープライズらしい大逆転! ああ、何度見てもワクワクする。たぶん24世紀のライカーも同じ気分だったことだろう。(後の作品で書くが、彼はどうもカークファンのような気がする。)

☆..と絶賛した直後に書くのも何だけど、あの展開って「宇宙戦艦ヤマト」の七色星団の戦いにちょっと似てないか? (真似という意味ではなく。)

☆カークの最後の指示「面舵だ。右から2番目の星に向け、夜明けまで直進せよ。」 "右から2番目の星"は「ピーターパン」のネバーランドのことだけど、字幕版では説明できないと判断したのか、ばっさり置き換えられた。残念!




【印象的なセリフ】
ヴァレリス「連邦が曲がり角に来ていると思われませんか?」
スポック 「人生は曲がり角の連続さ。信念を持つことだ。」
ヴァレリス「しかし、論理では..」
スポック 「論理など..論理は知恵の始まりであって、終点ではない。」


【今回の「頑張れ!チェコフ」】
艦内でフェイザーを撃つと警報が鳴ることを知らなかった。ずっとエンタープライズに乗っている大ベテランが新入り(ヴァレリス)に教えられてどうする? しかも、カッコつけた推理が決定的にダメダメ。...


【今回のU.S.S.エンタープライズ】
何の問題もなく、見事に稼働。(さすが偶数作品。)
映像中で言及されていないけど、バード・オブ・プレイの攻撃でかなりやられたので、この後退役して博物館に入ったという話も。


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